今年の1月に拙宅に来た古いスピーカー(SP)のことです。
今はなき英国のSPメーカー:リチャード・アレン社のユニット3本を組んだシステム。
中心になる8インチ(20cm)径のダブルコーン・フルレンジの型式名が「New Golden 8」ということから、拙ブログではこのSPシステムを「金八(もしくは「新金八」)と名付けています。
前所有者(今は故人だそう…)がどのように使っていたのか詳しいことは解りません。
しかし、相当な拘りと愛着があったろうことが想像できるのですね。
私自身、リチャード・アレンのSPには、中高生の頃に親しく接した思い出があり、縁あって「相続」することになった「金八」を大切にしていきたいと思っています。
そんなわけで、金八への愛着は日々深まっていたのです。
しかし、その名のせいか、金八は音楽の語り口がややクドいキライがあり、時には暑苦しく感じることもありました。
これは、それまで鳴らし込んでいた「ウィーンアコースティック社モーツァルト・グランド(MG)」との比較においての感想です。
金八は、弦楽やヒトの声を得意にしており、その「欠点」とは背中合わせの美点「生命力」(音楽をいきいきと鳴らす底力)を、十分に認識していた私ではあったのですが、個別的にはピアノの再生や空間的表現において、MGに敵わない部分があったのです。
そんな中、愛する日本国政府から「特別給付金」が支給され、母ちゃんを経由して現金10万円を入手した私でありました。
このカネを有意義に使おう。
そうだ。金八の箱(エンクロージャ)を補修しよう。
今は箱の上に載っているドーム型のツィータ(TW)を、箱の中に収めてしまおう。そして、バスレフ(フロントバッフル下部の穴)をふさいで「密閉型」に改造するのだ…。
特別給付金の有意義な使い方として、これは「完璧」と思われました。
私は、自身のアイデアに酔っていました。
信頼できる施工会社を、大先輩のこばさんに教えていただき、
N兄に、この改造案についての意見を聞きました。
N兄からは「いいのではないか。でも、そうすると全く別モノになると思うぞ」
とのコメント。
もとより、その覚悟だったのです。
もし、金八のパフォーマンスが落ちたら、また「イチから」コツコツと改善していく所存だったのです。
***
さて。
6月終盤の群馬ドライブ旅行から戻り、4日ぶりに金八で音楽を聴いたのです。
…すると…。
あ。音が、音楽がまったく違っている。
これは奇跡のようでした。
金八の持ち味の「湧き出るような音楽の生命感」はそのまま。いやむしろ増している。
左右のSPの間に、音楽がみなぎっている。
そして、良い意味での客観性(冷静さ)を持った鳴り方になり、品のよい音像が定位し、中高域の響きからは「涼やかさ」すら感じるのです。
***
ワルター指揮、コロンビア響のシューベルトの交響曲第5番の。
…低弦の響きの芳醇なこと。
アバド指揮、アルゲリッチのピアノとモーツァルト管弦楽団による協奏曲20番の。
…ピアノと木管が響きあうときの空気のふるえの瑞々しいこと。
もう1曲だけ…とかけた荒井由実の「空と海の輝きに向けて」の、ベースとドラムの生命感。
そして、若い声を重ねたハーモニーの、虫の音みたいな独特な魅力。
しつこく付け加えると、荒井由実の声。
このトシになって10代の娘の声にトキメイタわい。
うーん…参った、参りました。
金八さん。いったい、どうしたのですか?
アナタ、こんなに物凄いヒトだったのですね。
旅行前には酔いしれていた「金八密閉化」のアイデアは、廃案となりました。
ただ、おそらく40年前後は経過している箱(エンクロージャ)は彼方此方が傷んでおり、修復を必要としています。
TWが箱の上に独立する現在の形式を守り、必要な修復だけを行うことに、舵を切り直すことにしました。
こばさんにご紹介いただいた会社さんに依頼して、しっかりと補修してもらおうと思います。
「金八のドック入り」は、おそらく7月後半になるだろうと思われます。
その間、またモーツァルト・グランドを設置して、その玲瓏な響きを聴かせてもらおう。